2016年04月11日

桜花の轍(わだち)

今年の桜は、春の大嵐のせいで
あっという間に終わってしまった

ただでさえ短い、花の命
今年もまた、ゆっくりと花見なんか
出来なかったなあ~

そんな時、いつも心を慰めてくれるのが
工場のお隣さんの庭の、大きな桜の木




今年も、ハラハラと桜の花びらが
風に運ばれ、工場の思いがけないところに届けられ
あわただしい作業で、すさぶ気持ちを慰めてくれる




お隣さんのご主人、赤黒く焼けた顔で
一見、機嫌悪そうに見える強面

天草に来たばかりの頃、湯飲みに焼酎をそのまま注がれ
「飲め!」と言われて以来、正直近寄り難かった

寝食をする家の隣に、鈑金工場
ハンマーを叩く音は鳴り響き、エアーコンプレッサーの
動作音は、定期的に発生する

どうかすれば、シンナーの匂いも
風向きでは、するであろう
百害あって一利なしだ




夜遅くまで、残業が続いたある日
ふと、ご主人と顔を合わせたので
詫びを入れた

「すいません、毎晩遅くまでやかましくて・・・」
そう言うと、返ってきた答えが
「おら、なんも聞こえん」
その一言だけだった・・・

どこよりも工場に近いというのに、お隣さんから
苦情を受けたことは、一回もなかった

しかし、近所のやんちゃ息子が
バイクのアクセルを空ふかしをして
家の前を通った時は、猛然と追いかけて
説教していた




家のお孫さんたちも、「鈑金屋さ~~ん!」っと屈託のない笑顔で
挨拶してくれるのも、家の主が
決して悪口を言う事もなく、きちんと
うちの仕事の話を、していてくれたからであろう

原田鈑金が、今日まで仕事をしていられるのも
お隣さんはじめ、ご近所のご理解のおかげである




そんなご主人が、定年を前に急逝された・・・

生前愛された、桜の花が今年も咲き誇る
あたかも、家族を見守るかのように

花びらはやがて木を離れ、雪のように降り積もる

その、筋の通った一本気な生きざまは
轍(わだち)となって、現れる




やがて風に散らされ、雨に流され
花びらの轍は消えていくだろう




しかしその姿は、家族や多くの人の胸に刻まれ
いつまでも消えることはなく

迷いそうな時にも、正しい道に
導いてくれる、轍となって浮かび上がるのだ









  


Posted by 原田鈑金塗装  at 02:01Comments(2)日々の出来事雑記