摩天楼に灯がともる頃
ボクは、浴槽の湯に体をひたしながら
二つ並んだ、石けんを視界の端に
ひそかに、とらえていた




ひとつは、ごくごく普通の
体を洗うための、石けん

そしてその奥に、なまめかしくボクを誘惑する
洗顔用の石けん

その泡立ちは、すばらしく
ネットに数秒、アライグマのように
こすり付けるだけで、生クリームのような
きめ細かい、やわらかな泡が
手の中に、あふれ出てくるのだ





あの洗顔石けんで、全身を洗ってみたい
なめらかな泡を、全身にまとう時
幼子が、母の胸に抱かれるような
甘美な幸福感に、包まれるに違いない

ボクの想いは、シャボン玉のように
ふくらむ一方だ

体を洗うため、タオルにつけようと
洗顔石けんに、恐る恐る手を伸ばすと

「そっちは、洗顔用!!」
激しく妻が叱責する

そう原田家は親の代から
夫婦寝るのも一緒、お風呂も一緒なのだ





今夜も、あのミルキーな泡に
全身を包まれたいという欲望は
泡のように消えたのである

強行すればいい?
そんなことをすれば、妻から頭の皿を
カチ割られて、口から泡をふく羽目になりますがな



  


Posted by 原田鈑金塗装  at 00:52Comments(3)日々の出来事雑記